日本の食の未来について
Report(2時間のお話の中のハイライト)
麻:リポーター麻美 最近エコロジカルハーバリズム(自然栽培)を学び、知りたいことが溢れている
農:農家さん 従業員数約20名、農地600ヘクタールの畑で慣行栽培による農業経営をされている
※慣行栽培…農薬、化学肥料などの化学物質を使用する農法、最も一般的
※有機栽培…定められた期間以上、化学物質を使用しない農法
※自然栽培…化学物質を一切使わず且つ不耕起で、植物と土壌細菌の生物多様性と生態系を用いた農法
プロローグ ~野菜直売所にて~
麻:きれいなお野菜ですね。慣行栽培ですか?
農:そうですね。なぜですか?
麻:いま自然栽培を学んでいて…いろんな疑問が湧いてきて。あの、もしよろしければ慣行栽培について教えていただけませんか?
農:自然農法を学んでいるなら、うちは真逆だからいいよ
私:あの…自分の話しになりますが、化学物質過敏になり多くのものを失って自然農法を学びました。ですが私はまだ素人で、社会や家族の生活を支える責任ある農法を知りません
必ずしも自然農法と慣行農法が対立構造にあるとは考えておらず、ハイブリットは無いのかと探りたいと思っています
農家さん:じゃあ畑に来てください、お話ししましょう
麻:今日はお時間くださり、ありがとうございます。よろしくお願いします。※自己紹介
農:化学物質過敏症って、ここは大丈夫なんですか?
麻:はい、私が拒否反応が出るのは今のところ柔軟剤と合成洗剤に含まれる化学物質でして、近年使われるようになったマイクロカプセル技術で…(かくかくしかじか)でして。それで、添加物や農薬もなるだけ摂取しない生活を心がけるようになり、自然栽培も知りまして…(腹割っていきます)
農:大丈夫かな…ここは、たくさん農薬使ってるからね?
皆んなさ、一言で〝農薬〟っていうけどさ、重曹みたいなものから、スプーン一杯で人が死んじゃうものまであるのよ
麻:ですよね……。(鍵かけておく系だ…それも安全って言われてるけど)
あの、農薬散布される時はIPMみたく害虫が出たところだけスポット的に散布されるんですか?(覚えたての知識♡)それとも全体に一斉に散布されるんですか?
農:あのね…うちの畑600ヘクタールあるのよ(聞き間違いかな、広すぎない??)それ、いちいち虫が出てるか細かく見て回るのにどれだけ時間がかかると思う?
麻:確かに…
農:また最低賃金が上がってさ。従業員の1時間の給料払うのに、レタス400個出荷しなきゃいけないんだよ
麻:え…っと。レタスいま一個170円くらいでしょうか。×400で、従業員の皆さんが20名で…運搬費とかの経費もあって…(チーン)とにかく究極の薄利多売ってやつですかね、時間とコスパ勝負ってことですね…
農:そう。まあ、キロ、いくらなんだけどね
レタスやキャベツ山積みにできないからね、段ボール資材だって必要になる
皆んなねえ、簡単に自然栽培とか有機とかいうけど、採算とれないのよ
麻:そりゃあ、そうですよね。私も吹けばとぶような経営したことあるんで、そのヒリヒリした感じ分かります
農:だから当然、いっきに農薬撒くよ、皆んな。単価数百円の野菜で、何処かに出た害虫で全部ダメになったら大事だからね
麻:確かに…予防の意味でも必要なんですね
農:それに有機や自然栽培やるとしても、近所に農薬使ってる畑があったらアウトだからね
麻:はい、そこなんですよねえ…
農:福岡正信さんの『わら…
麻:一本の革命』ですね
農:そう。あれだって、虫の少ない標高の高い山じゃないと出来ないよ?しかも隔離されたような場所でね
麻:確かに…(「地球少女アルジュナ」の森のおじいさんのモデルである)
農:雑草の種子をとばしたら近所の畑からクレームになるしね。まあ、このへんでもやってる人もいるよ。有機という名の、ぎりぎりの農薬と化学肥料を使ってね
麻:あの、お聞きしたいことがあって…。
いま、お使いになられている農薬や化学肥料は輸入ですか?
農:そうだよ
麻:全部ですか?
農:そうだよ
麻:あの……もし輸入がストップしたらどうなりますか?
農:終わりだよ
麻:…え?
農:慣行栽培やってるところは全部、終わりだよ
麻:あのう、終わりというのは…やはり野菜が作れなくなるってことですよね?
農:そう
麻:化学肥料でつくった土は、化学肥料を入れ続けないと植物が育つための有機物がないから…ってことですよね
(植物が根から吸い上げるための栄養素は、土壌の微生物が分解してつくっている。化学肥料を施すと土壌中が酸化して生物が住みにくくなる。我々含めて生物は弱酸性。化学肥料は舐めるとしょっぱく塩類が高い。ナメクジに塩をかけたら溶けるように、カビも生えない、微生物も住めない=生態系のない土となる…と、学んだ)
あの、やばくないっすか?それ
農:そうだよ。それはもう仕方ないよ、そうなっちゃってるんだから
麻:え…なんとか出来ないっすかね
例えば自然栽培なら、農薬や化学肥料に依存せずに生態系でやれるじゃないですか
虫も天敵に任せて、土壌の微生物もグリーンマルチとかで増やせるじゃないですか(耕さないことで地表の雑草が適度に土壌の湿度を保ち、根を抜かずに残して微生物のエサにする)
農:自然栽培やって、結局「作物がどれだけ採れるか分かりません」みたいな状態で、従業員も雇えないし、買ってくれるところもないでしょう?それでなくとも国内自給率が30%もない、それも輸入ありき。それ以上に野菜が採れなくなるという方向は、ますます状況が悪化することだよね?
麻:…でも、現状だって危ういですよね?(生態系のない土と、輸入ありきって)
あの、地域内循環はどうですか?地域の家畜の糞の有機物をまわしてもらうやつ…
農:それはやってるところは多いよ。でも、それにも問題はあって
まず、この規模の畑に間に合うだけの牛糞は◯トン(失念)は要るよね
それをどうやって運ぶ?
麻:設備を増やさなきゃいけないのか…
農:そうだね。保管する場所もどうする?
麻:確かに。動物堆肥は、土に混ぜて完熟するまでの期間ねかして置かなければならない…混ぜるのに人件費もかかる…か。あと近隣への配慮
農:そう、臭いといわれないように囲う倉庫が要るかもね
実際そうしてる人もいるし
畜産農家さんに置いといてもらうとか、うちのために迷惑かけられないでしょ?
麻:では、牛床が廃棄されるサイクルにあわせて野菜をつくる!
農:それこそアウトだよ。野菜が出回らなくなる
麻:そうか…(やはり大量生産の限界…)
農:それに、牛糞だけでまかなうには全然栄養素が足りない
年2回入れなきゃ間に合わないし追加で別の肥料が必要
それを広大な畑全体にやらなきゃいけない
対して化学肥料なら、窒素、リン、カリが必要な割合で配合されているから撒くのも早いし長持ちする、手間も比べ物にならない
麻:……
農:もう、こうなってきたら哲学になるんだよ
麻:そうですね…
農:人間の腹を満たすことが最優先でしょう?
麻:(もっともだけど…それじゃ緑の革命だ…)それとも、
いつ、せーので日本の作物が作れなくなるか分からないリスクと、人の私腹を肥やすために他の生物を殺すことを良しとする、か(腹割って話してます)
農:やれたらいいと思うよ、自然栽培も
けど、うちは借金が(億弱)万円あるからね。従業員の生活もある
麻:え…(設備費??それとも収支が見合っていない??)
あの…、◯◯さんは、どうして農業を?
土地を受け継がれたとか、ですか?
農:いいや、新規参入したんだよ。農業の担い手がないっていうからヤバいと思って
麻:めっちゃかっこいいじゃないですか!従業員さんも雇われて、すごいですよ!
農:自分は365日、ぶっ倒れた日以外は稼働してるよ
麻:大変だ…補助金とかないんすか?
農:農業を学ぶためにボランティアで働いて技術習得して、もらった野菜を許可もらって近所で売ってた
やっと起業するってときに、あなた新規参入じゃないでしょ?今まで収穫した野菜売ってたでしょ?って補助金の対象外になった
麻:あーーーー…ありがち…(似た経験あり)
農:他の農家に意地悪されたりね
麻:あーーーー…そういうのもあるのか…
私、植物の光合成から動物エネルギー(私たちの食べ物)に変えてくれる入り口は、農家さんだと思ってるんですよ
そんな重要なポジション、もっとやりやすいように国が補助してくれてもいいと思うんですけどね
実際、私が化学物質過敏症になって命懸けで調べたんですが、食品添加物やら何やら…いろいろ調べれば調べるほどに根が深いんで(ここでは自粛)もう仕方ないなって…
農:そうだよ。誰かに文句言ってたって仕方がない
私:もっと農家さんがやりやすい方法ってないんですかね
スマートアグリとか?
農:あれも、いろんなところから声掛けがあるけど
確かにドローンで農薬散布とかしたら数分で作業が終わったりするんだよ
でも飛行経路を国に報告しなきゃいけなくて
ドローンにGPSデータとか搭載してるんだけど、報告書は紙で出せっていわれるんだよ
麻:あーーーー…ありがち…
農:そういう手続きだけでも面倒
麻:そこだけアウトソーシングしちゃったら
農:コストがかかるでしょ
麻:大学の研究費でやってもらうとか…?
まあ、でも、そっかあ、まだ現実的じゃないんですね
何か新しいことに挑戦するにしても、そのキャパがないんですね
農:自分はね正直、栽培方法なんか消費者に伝えなくていいと思ってるんだよ
麻:…!?(農薬を使っている使っていないとかを?)
農:通常、店頭に並ぶ野菜は輸送されるから収穫後2、3日経ってる
うちなんかは、収穫した当日にお客様に届けるようにしてる
それだけで「他の野菜と段違いに美味しい」といって畑に収穫体験をしにくる顧客もいる
農家の横繋がりがあるから、有機やってる人も、自然栽培やってる人も知ってるけど、それぞれに顧客がついてる。それでいいと思ってるんだ
麻:確かに…現状のニーズとしては、そう……ですね
農:ちなみに、自然栽培で食えてる人はいないよ
麻:でしょうね。スタッフもボランティアが多いですもんね
農:ボランティアってさあ、社会活動だと思うのよ
どこか一個人の農家のためだけにやってるのは違うと思うんだよね
麻:でも、いざという有事にその役割を果たすかも知れませんよ
農:それでけの収穫があったらね
麻:……。あの、もし慣行栽培から自然栽培にシフトするとしたら、どんなケースが考えられますか?
農:売上の3%以内だね。でも、それは経済活動じゃない。環境保護活動だよ
麻:ですよねえ…(環境保護で補助金でそうだけどな…売上げ出たらNGだろうけど、たぶん)
でもゼロじゃないんですね!有機の波は来てますよね?なんかJAも推奨し始めてませんでしたっけ?
農:まあね
だいたいさあ、有機や自然栽培って昔の日本でやってた農法じゃない
それをさも画期的みたいにさ、もてはやすのが何か違うっていうか…
麻:それは、あれですよ。時代は繰り返すってやつですよ。パンタロンがまたトレンドになる、みたいな…ブランディングですよ。
農:…(笑)
麻:…わかりました
確かに自然栽培が経済活動サイクルの中に入るのはハードルが高そうだ。だから、植物学の先生は家庭菜園を広めろって言ってるんだなあ…
農:でも、農業や食料自給の問題に目を向けているのは正しいよ
実際、貴女と同じような考えをもってやってる農家がいる
紹介するよ。農大や農水(農林水産省)とも太いパイプがある
何をするにも、パイプはあった方がいい
その人、畑の作物をつくるのはめちゃくちゃ下手だけど補助金下ろすのはうまいんだ
麻:はあ…そうなんですね(←ただ知りたいだけで来た人)
農:うちも堆肥に大手メーカーのコーヒーかすを使ったりしてるのも、そういった資本の流れの可能性を考えてのことなんだ
お金になることなら協力するよ
麻:マネタイズ大事ですよね…(従業員もいらっしゃるし)
農業って、勝手に新しいスキームつくれるものなんですか?
農:農家も今のままではヤバいと思ってるよ、農業も、この国の食料自給も
まあ、いろいろ考えてみてよ、協力するから
麻:皆んなで考えましょう!また何かあればご相談させてください!
貴重な労働時間をいただいてしまってすみません
お野菜を購入してっていいですか?
農:B品でよければいっぱい持ってって
麻:ありがとうございます!
(帰りに従業員の方々が、長ネギや里芋のパッケージをしながら笑顔で手を降ってくださいました
より深く考えさせられました
3%のギミックか…)