市原悦子さん

とても、とても淋しいです。

ドラマでご一緒させていただいたときのことを忘れません。
本番に入る直前で一旦〝待ち〟が入ったとき、
芝居モードから解かれた市原さんが、「緊張するじゃない、ねぇっ」と意外にも語気を強く仰って、小さく震えた両手をキュッと握っておられたことが、鮮明に思い出されます。
ねぇ、と投げかけられ、つい「そうですね」と答えてしまったことが、いまでも恐れ多いです。

同時に、心から尊敬する大好きな女優さんになりました。
テクニックでうまくやれる役者さんもたくさんいらっしゃいますが、多くの場数を踏んでも、その緊張感を保ち続けることの方が素晴らしいと感じたのです。誰にも言ってはいけないような、誰かに伝えなくてはならないような、大きな秘密を抱えた高揚感を覚えたものでした。

舞台に立つ前、本番よーい!の前、ものすごく緊張してしまう自分は、この仕事に向いていないのだと思っていました。市原さんにどれだけ勇気をいただいたか知れません。

悔やまれるは…芝居中、そんな尊敬する背中をおいかけるシーンで、心から「先生!(待ってください)」と呼びかけたくなったのに、アドリブの勇気がなく小さな声になってしまい、市原さんに届きませんでした。
あの後悔とさみしさも、ずっと忘れることはありません。

これからもずっと、尊敬しています。
ありがとうございました。